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更新日　2021年6月8日  ネタバレビュー『ミッドナイトスワン』★★☆
角屋清志

要するに此れは、一番の元ネタは『真夜中のカーボーイ』(68)ですな。「ミッドナイトスワン」とはゲイバーで定番らしい白鳥ダンスを

踊っている草�g剛君の事で彼は結局白鳥として羽ばたく事は出来なかったけれど親類の少女を羽ばたかせたと言う物語。最初の方で

ゲイバーのお客様との会話で「海に行ってみたい」と語る辺りでラストは海辺だと予想したがバスに乗って出かける辺りで

『真夜中のカーボーイ』があからさまに成った。草�g君が演技賞貰うのは判るし本当に踊れるらしいあの少女は逸材だと思ったが、

少女2人が怪しい撮影会でアルバイトをしていると言うのは作り過ぎだと思った。世界的バレリーナを目指しているのならそんな

リスキーなアルバイトには手を出さないだろうと思った。此の辺りバレエ業界や少女ビジネス業界をきちんと取材したのであろうか?

後、あの子が母子家庭で育って母親と上手く行っていなかったのなら少女はむしろ父親を求めるのではないかと思ったし、草�g君が

父親に成ろうとする展開の方がしっくり来たと思う。単発に成って男性的な職場で働いたかと思うと直ぐ本格的な性転換手術を受けたり

と彼の心の動きが良く解らなかった。あれやこれやで2人の関係性が今一つ得心出来なかったし、あのもう一人の少女は投身自殺って事?

唐突だし安易な作劇に感じてしまった。あれこれ詰め込もうとして上手く収束出来ていないと言う印象が残った。LGBT問題は軽率に

発言出来ないが、此の内容ならLGBT問題等、持ち込まずとも母子家庭で育った少女と親類の駄目おやじの物語としてまとめてくれた方が

僕はすんなり感動出来たと思ってしまった。すまん、古い人間なので。

エルビス・ドキュメントの第2弾。1972年の4月の2週間、全米15都市を渡って行われたツアーに密着した作品である。

ゴールデングローブ賞のドキュメンタリー映画作品賞受賞。本作の注目点はマーティン・スコセッシが編集アドバイザーとして

参加している事だろう。此の年、スコセッシはロジャー・コーマン・プロデューサーの元、『明日に処刑を』を掘っており、翌73年

『アリスの恋』の成功で国際的に知られる事に成るが本作や69年の『ウッドストック』の編集に携わりながら鍛えた音楽演出の手腕は

後に『ラスト・ワルツ』(78)、『シャイン・ア・ライト』(07)に開花して行く事に成る。マルチ・スクリーンの多用やエルビスの劇映画の

キス・シーンばかりを繋げた編集等に才気を示している。各都市でのファンの声やツアー・メンバーの仲間意識等、上手く拾い上げて

「愛されるエルビス」を巧妙に演出しており、93分にすっきりとまとまって楽しめる音楽ドキュメントと成っている。

エルビス・プレスリーの主演5作目にして2本目のカラー作品。前作『さまよう青春』(57)後2年間の兵役生活を経ての復帰作品で在り「反逆児」

から「愛される皆のエルビス」へ変貌を告げる大衆娯楽映画と成っている。そしてエルビス映画のフォーマットは此の映画で完成したと言っても

良いだろう。エルビスは此処で11曲歌うが、かつての性騒的な歌唱から落ち着いた歌唱へと変化して上手く灰汁抜きされており、ギターもそれなりに

こなしている。相手役のジュリエット・プラウズはクラシック風とジャズ風の二つのステージを踊り、実際にエルビスが駐屯していたドイツを舞台に

風光明媚な現地ロケーションを取り入れて、音楽娯楽映画としてまずは過不足無い仕上がりと成っている。改めて観ると60年代プレスリー映画は

同時代の加山雄三の若大将シリーズに通じる魅力が有ったのだと思う。惜しむべくはあくまでスターは彼一人で、匹敵する格の有る相手女優の起用を

避け、親しめるレギュラー出演陣を確保しなかった事が後の極端なマンネリ化に繋がってしまった事だ。ここら辺り、やはり悪名高きマネージャーの

戦略ミスであろう。ともあれ、プレスリー映画入門として最適の一遍で有り、かつてエルビスが亡くなった77年に追悼として東京12チャンネルで

放映され、映画評論家の小森和子と「和製プレスリー」としてデビューし、後に、アニメ・ソングの帝王と成った歌手ささきいさおが対談していた事を

懐かしく思い出した。

エルビス・プレスリーが1970年に行ったラスベガスでのショーのドキュメント。稀代のエンターテイナーとしてのエルビスの姿を捉えて楽しめる映画だが

スペシャル・エディション版は劇場公開版110分より短い95分にまとめられており、僕としてはステージに上がる迄の神経質な姿をも捉えた劇場公開版

の方がより素顔のエルビスに肉薄して感銘があったように記憶している。やはりこちらは悪名高きマネージャーや取り巻き達の望む「作られた」エルビス

として仕上げられているのではないかと言う印象が残った。出来れば両方のバージョンを収録して欲しかった。監督デニス・サンダースは翌71年には

『SOUL TO SOUL　魂の詩』も有り、ブラック・パワー炸裂の作品で音楽映画で名を馳せるかと期待させたが2本のみ残して消えてしまった。

『SOUL TO SOUL　魂の詩』もブルーレイをリリースして欲しい。そして後の2本のエルビス・ドキュメント『エルビス・オン・ツアー』(72)、

『ジス・イズ・エルビス』(81)を改めて鑑賞して、エルビス・プレスリーを再検証したいと思っている。

更新日　2021年5月31日  80年代映画レビュー『ロジャー・ラビット』★★★
角屋清志

更新日　2021年5月31日  ニュー・クラシック・レビュー『脱走山脈』★★★
角屋清志

ずっと少しだけ気に成っていた。自身が生まれ育ったマルセイユを舞台の中心とし、労働者階級や移民等の社会問題を問う、

ロベール・ゲディギャン監督。妻で女優のアリアンス・アスカリッドを主演に『マリセイユの恋』、『キリマンジャロの雪』と言ったヒット作が

在り、世界三大映画祭常連のベテランだ。『マルセイユの恋』のフランス映画祭公開時にその存在を知り、たまたま時間の都合で

観る機会が無いまま20年以上が経った。本作も、ヴェネチア映画祭のメイン・コンペティションで上映されたと言う。2017年作が今年

の日本公開に成るのはコロナ渦だからなのだろうか。監督にとっての映画人生40年の集大成と成る傑作と言われている。

観る者の好みや事情を問わず、「映画って良いな」とシンプルに感動させられる作品に久し振りに出会った。

何時以来かと言うと、2005年のコリーヌ・セロー監督作『サン・ジャックへの道』を観た時だ。その事が直ぐに思い出せたのは、

どちらもジャン=ピエール・ダルッサンがメイン・キャストで出演しているからだ。彼の出ている映画はだいたいどれも良いのだけれど。

『サンジャッフへの道』の時には通っているフランス語学校の仲間達に勧めて大好評を得て嬉しかった思い出が有る。

マルセイユと言ってもガイドブックに載る様な場所は登場しない。美しい入江を持つ小さな町。かつては別荘を建てる人で賑わっていたが、

今では寂れかけてする。入江の中心に在る海辺の家のテラスで老人が眠っている。その父との最期の日々を過ごす為に3人の子供は

集まる事にする。パリに住む人気女優のアンジェルが帰郷するのは20年振りだった。或る事件がきっかけで父親と確執が生じてしまっていた。

上野兄(ジェラール・メイラン)は地元で家業の小さなレストランを継いでいる。下の兄(ジャン・ピエール・ダルッサン)は最近リストラされた。

若い婚約者を連れて来るが、2人はどうも上手く行っていない様子だった。3人が集まったのき、一人暮らしの父が、突然倒れたからだ。

意識は有るものの、コミュニケーションが取れない。家族の思い出の詰まった「海辺の家」をどうするのか。それぞれの過去や現状も含めて、

2021.5/7・14 金曜ロードSHOW・新吹替版記念!・再掲載　真のメッセージソングをお読み下さい。

「タイタニック｣主題歌・歌詞&訳詞 タイタニック愛のテーマ MY HEART WILL GO ON (正翻訳版)

更新日　2021年5月 1日  書評『大統領とハリウッド』
角屋清志

2019年発行なので新刊ではない。書店でも映画本のコーナーには置かれていないので存在を知らなかった。新書や文庫オリジナルの映画関連本は

映画書のコーナーに置かれていない事が良く有る。以前取り上げた瀬戸川宗大の「世界の戦争映画100年」もそうだった。蓮實重彦の「見るレッスン」

(光文社新書)はさすが大御所だけに何処の書店の映画本コーナーにも置かれていたが。そんな訳で映画ファンでも本書を知らない人が多いと思うの

で、ご紹介したい。1915年映画史上最大の難物と言われる『国民の創生』にリンカーン大統領を登場させて以来、ハリウッド映画は実在・虚構を合わせ

て様々な大統領像を描き続けて来た。そうした様々な大統領像、様々な作品を通じてエンターテインメントと政治が融合した国アメリカを考察した本で

1984年度作品。製作国フランス、製作アラン・サルド、アラン・ドロン、撮影ジャン・バンゼ、音楽ローラン・ロッシ、監督・脚本ベルトラン・プリエ、

出演アラン・ドロン、ナタリー・バイ、他。　カラー、ヴィスタ・サイズ、上映時間110分。

1960〜1970年代にジャン・ポール・ベルモンドと人気を二分したフランスのトップスター、アラン・ドロンが、脇役から主役格へとキャリア・アップ

したばかりのナタリー・バイと共演した奇妙な味のメロドラマ !?  タイトルやジャケットからラブ・サスペンスを連想させるが、そうではなく、ドロンが

列車で出会った謎の女ナタリー・バイに翻弄されると言うシュール・レアリズムを狙ったかのコメディのつもりなのか良く判らない珍品である。

ドロンはアル中で缶ビールばかり飲んでいてビールでアル中になるんかいと突込みを入れたく成るし、終始ドロンとした目をしていて、およそ格好良く

はない。 一応エッチはしている様だが、そのシーンは無いし、そもそも女性のヌードが無い。男と女の痴話話の割にはやたらと無駄に思える登場

人物は多いし無名時代のジャン・レノも出ています。 ナタリー・バイが1人何役かを演じて現実と妄想と夢が交錯すると言う構成なのだろうが、少し映画

を見慣れた者ならば、およそ予測の着く結末へ辿り着く。 女遊びを続けて来て映画の中での女性の存在な扱いから女性差別主義者とも言われて来た

ドロンの贖罪の映画とでも思えばいい、か?  「映画応援男」の僕としてはつまらなかったものは取り上げないが、基本ポリシーだが、敢えて取り上げた

本作でドロンがセザール賞の主演男優賞を受賞しているからだ。 長年ドロンを冷遇して来たフランス映画界の贖罪であったのかも知れない。

ともあれ優れた俳優で在りながら演技的に評価されて来なかったドロンの唯一の勲章であろう。そして何故かアル中を演じると演技賞を貰えると

言う映画界のジンクスを証明する事と成った。そこで一つ提案、ライバルのベルモンドは昨年開催された「傑作選」が好評で間も無く

「傑作選2」が開催される。次は是非「アラン・ドロン傑作選」もお願いしたい。

取り敢えず、僕としてはアメリカ時代の『泥棒を消せ』(66)とミレーヌ・ダルクとの初共演作『ジェフ』(68)辺りをリクエストしておこう。

どちらも未見。演技賞受賞作品と言う事で☆半分オマケ。

「ユダとブラック・メサイア」ファイト・フォー・ユー (H.E.R.)●サントラ盤●　♪ 貴方の為に闘う♪MP3リスト『Page.21』

アメリカン・ニューシネマ末期に作られた知られざる傑作である。1973年度作品。世界的な反体制の熱気が終焉した後のシラケ気分を

反映したかのポリス・ドラマだ。ロック・バンド「シカゴ」のプロデューサーであったジェームス・ウィリアム・ガルシアの唯一の監督作品だ。

公開当時は映画会社や観客が期待した反体制やふんだんに使用されるロックと言う要素が少なく主人公が体制側の白バイ警官であった

為か「右翼的」・「ファシスト」と叩かれてしまった様だが、当時若干28歳であったと言うガルシアは確かな演出手腕でプロの映画だと

感じさせる。それもそのはず彼の祖父も父も映写技師で彼はジョン・フォードの信者でも在ったのだ。フォードが亡くなった73年に此の映画を

作ってしまった辺りに今にして思えば感慨深いものがある。当時そうした情報が入っていれば蓮實重彦あたりは確実に擁護していたのでは

なかろうか? 時代と行き違ってしまった為にガルシアの監督作品が此れ1本で終わってしまったのは何とも残念であった。裏『イージー・ライダー』

として再評価して欲しい映画である。撮影は『明日に向って撃て!』(70)の名手コンラッド・ホール、『明日に向って撃て!』のリリカルな画調とは

異なるグルーミーな画調でフォード・テリトリーのグランド・キャニオンを切り取っている。タイトルのブルーは警官の制服の色や青空の他に憂鬱の

意味も含まれている。言わば『イージ・ライダー』が反体制の側から描いた「アメリカの夢の終わり」を体制側から描いた映画だと言えるのでは

ないだろうか。ラストの大ロングでカメラが引いて行く演出や讃美歌の様なコーラスの使用法等、見事なものである。主演のロバート・ブレイクは

以降活動の場をTVに移し、2002年の事件で消えてしまったし、他の出演者もほぼ無名だが、知る人ぞ知る名脇役エライシャ・クックの起用法を

ハーモニー・コリンの最新作だ。十代の頃から脚本を書き始め、ハリケーンの被害を受けた街の不安定な住人を描いた悪夢がドラマ『ガンモ』で22歳で

監督デビュー。その前にラリー・クラーク監督の『KIDS/キッズ』の脚本を19歳で手掛け、その両作品で『アンファン・テリブル(恐るべき子供)』と呼ばれて

いた。此の二作は衝撃的だったのは憶えているが、その後の作品は観ていない。プレスによると、ハリウッドのジャンル映画史に一石を投じた『スプリング

・ブレイカーズ』(12)等、作品毎に全く違ったスタイルを持ち、一部からは酷く嫌われる一方、熱狂的なファンを持つ、20世紀以降、インディペンデント映画

界で最も怖いもの知らずの映画監督なのだそうだ。マチュー・マコノヒーを主演に迎え、スフープ・ドックも出ているのが楽しみだった。

もうひとつ、プレスで先ず目が行ったのは、撮影がブノワ・デビエと言う事だ。初めて聞く名前なのにプロファイルを見ると既にファンに成っていた。

初めて担当した長編映画がギャスパー・ノエの『アレックス』(02)、ファブリス・ドゥ・ウェルツの『変態村』(04)、『変態島』(08)、ルシール・アザリロヴィックの

『エコール』(04)、ギャスパーとはその後も全作で一緒に仕事をしている。私が今年初めて観たフランス映画『エクス・ルテナ』(19)も含め、全部大好きな

映画だ。ムーンドック (マシュー・マコノヒー)は、ビーチ・バムと呼ばれている。「渚の酔いどれ詩人」の意だ。かつては天才と讃えられた詩人だった。が、

今は、謎の大富豪で妻のミニー (アイラ・フィッシャー)の財力に頼りアメリカ最南端のフロリダ州キーウエストで、悪友ランジェリー (スヌープ・ドック)らと

どんちゃん騒ぎの毎日を送っている。青く美しいビーチサイドのゴージャスな家に住むムーンドックは長髪にアロハに短パン。アメリカのプロレスラーの

様な出で立ちだ。小さな捨て猫を拾って来て、連れていた。そんな自由気ままな放漫浪生活が、或る事件をきっかけに奪われ、ムーンドックは一文無しの

ホームレスに成ってしまう。映画の流れとして彼が再生に望むのは予想出来るが、そのプロセスが意表を突く。「俺の為に世界がある」と、うそぶく

ムーンドックのテキトーでポジティブな生き様は、応援して良いものなのか良くないものなのか、映画史上最高にハッピーと言うラストを体感して欲しい。

主演は『ブラックパンサー』(18)主演で世界のヒーローに成ったチャドウィック・ボーズマン。彼は20年8月に43歳の若さで亡くなった。

自分の病を知りつつも本作の脚本に惚れ込んだ彼は、プロデューサーとしても参加している。

演技の勉強にイギリス交換留学を薦められたチャドウィックは、渡航費や学費が捻出出来ずに断念しかけた過去がある。その時、

或る人物が費用を提供しようと言う。後にその人物がデンゼル・ワシントンだと知ったチャドウィックは、俳優として出会い、直接お礼

を述べたそうだ。と、そんなエピソードを此処に書いたのは、送られて来た全2ページの資料に在ったからだ。エピソードをもうひとつ。

『ブラックパンサー2』が22年7月に全米公開決定。チャドウィックはCGや代役は起用せず、撮影時は闘病中にも関わらずその事を

伏せて撮影に挑んだと言うから、そちらの方も楽しみだ。

私はチャドウィックを映画で観るのは初めてだったけれど、主役に相応しい良い顔をしていると感じた。共演は、『アメリカン・スナイパー』

のシエナ・ミラー、『ビール・ストリートの恋人たち』のステファン・ジェームズ。制作には、『アベンジャーズ』シリーズのアンソニー&ジョー・

ルッソ兄弟監督が名を連ね、テレビドラマ中心に手掛けて来たブライアン・カークがメガホンを取った。試写案内の葉書の最も大きな

コピーに「マンハッタン島、完全封鎖」と有る。続く文章に、「8人の警察官を殺した強盗犯を追跡するために、N.Y.マンハッタン島にある21

の橋を総て封鎖する」。ニューヨークの地図を知らない私は沢山橋が出て来て、「橋」もメインキャストの一人の様なものだろうと思って

いたが、全く違っていた。13歳の時に警察官の父親を殺された過去を持つアンドレ・デイビスは、15年後、ニューヨーク市警の刑事と成った。

が、9年間で8人を射殺したとして内務調査の対象者でもあった。真夜中のブルックリン。2人の男が車を降りるとマシンガン片手にバーに

入った。オーナーの隠し持っていたコカインを奪おうとすると、そこに警察がやって来た。2人は警官を撃ち逃走。犯人の一人と向かい合った

アンドレはねそこに強烈な違和感を覚えた。

「ノマド」とは本来、中東の砂漠地域に生息する「放浪の民」のはずだが、本作ではアメリカ西部に生息している。リーマンショック後のアメリカで

急増した現代「ノマド」に取材したノンフィクションを原作に作られた「ドキュメンタリーフィクション」とでも形容したい感覚を持った作品だ。

■主役は『スリー・ビルボード』(18)以来と成る、フランシス・マクドーマンだが、他の出演者はどうやら実際の「ノマド」を起用している様だ。

■政治経済の問題はあくまで背景に留め、虚構と現実の境界を溶解させ「ホームレス」では無く「ハウスレス」だと語られる放浪の季節労働者で

ある彼らの共同体の内側に入り込んでいる。■カメラで捉えられた雄大な原風景はかつての西部劇の様なロマンよりも物悲しい詩情を感じさせ、

人間存在の小ささを残酷に浮かび上がらせている。■喪失と希望、孤独と自由を表裏一体に抱えながらそれでも彼らは生きて行く。「さようなら」

ではなく「また会おう」と旅立つ彼らはいわば目的地も終着地もない旅を続けているのである。

■彼らの姿に「明日は我が身」と身につまされつつ、彼らも頑張っているのだから自分も生きて行けると言う、ささやかな勇気も貰える映画であった。

■往年の「ニューディール政策時代」のホ〜ボー映画や、ある種の「ニューシネマ」の系譜の流れを汲みながら新たな視界と地平を開いた

ロードムービーだと言えるのではあるまいか。

僕の青春映画オールタイム・ベストワンである。劇場・ビデオ・DVD・ブルーレイと各2〜3回は観ている。懐かしい同時に新しい映画と言う感覚は後の

『スター・ウォーズ』シリーズにも共通するジョージ・ルーカスのセンスだが実は『スター・ウォーズ』シリーズは然程好きではない。何故此の作品だけ突出

して好きなのか上手く語れない。困った。強いて言えば「少年から大人に成る事」の不安と希望を描いた映画をほぼ同年代、製作の同時代に鑑賞したと

言うのは大きいと思う。そしてラジオと言う媒体とDJと言う存在への思い入れ、多くの人がラジオDJがまるで友人や家族の様に感じられDJが花形職業

の様に思える時期があったのではないか? 全篇に流れる音楽は無論どれも僕の同時代の曲ではないのだが、万博の年だったかその前年だったかに

戦後の洋楽ベストヒットと言うのを年度毎に半年間に渡ってFMラジオで毎週放送していた事があり、それで最低限の音楽的知識を蓄えていたと言う事も

あったのかも知れない。73年製作(日本公開は74年末)の本作の前年の72年のピーター・ボクダノビッチ『ラスト・ショー』のモノクロ・スタンダードの

トリビアリズムで朝鮮戦争出兵時の田舎町を描いて、そこで良き何かが終わったと言うペシミズムに沈み込んで行く後ろ向き感に対して、本作は

カラーのワイド画面の光の散乱の内に浮上して行く明るさが有る。そこがいい。無論、ラストのテロップはややペシミスティックだが、本作はそこで

「過去」は「過去」として断ち切って「未来」に生きて行こうとでも言った或る種の潔さが感じられる。エンド・クレジットに流れるビーチ・ボーイズの

「オール・サマー・ロング」そのままに諦念とオプティミズムが混在している。やはりボクダノビッチは「後ろ向き」で有り、ルーカスは「前向き」であった

と言う事か。そこらの資質の違いがその後の2人の失墜と成功と大きく明暗分けてしまった要因だったのではないかと今にして思う。

そしてメイキング等確認すると本作はNGを積極的に活用している。オープニングのテリーがスクーターを上手く止められず壁にぶつかるシーンから

して実はNGカット、そうした台本に囚われずにラフに崩して行った闊達さも此の作品の自由な解放感を生み出した要因でもあったのだろう。

言わば『ラスト・ショー』が計算通り設計図通りに作られた完成品の冷たさを感じさせたのに対し、本作は現場の生きた空気ゆ生身の人間の

ヴィヴィットな反応を積極的に反映させた温かみを感じさせる作品と成っている。

都市空間から南北戦争後の西部へと舞台は変わってもやはり此れはスタイリッシュ、スタティック、ニヒリスティック、ストイックと4拍子揃った

ウォルター・ヒルの世界である。スリリングな見せ場をふんだんに用意しアウトロー一味の長い逃亡の日々が綴られても全篇に漂うのは不思議な

静けさだ。写実主義、リアリティの上をヒル独自の闇のビロードが多い。此れもまた孤高の男達が意志と技術のゲームを繰り広げる魅惑の人口

宇宙と成っている。ライ・クーダーのギター・プレイもカントリー的な陽気さよりは沈んだ情趣を感じさせ、見事に再現された西部の街や自然の風物

も全ては暗調色のカメラに撮えられ、クライマックスの長いスローモーションはアウトロー達の敗北の舞の様式化された美しさに昇華されている。

動のアクションを展開しながらも全き静の感覚が有り、集団劇として濃密なファミリー的一味を扱いそれを兄弟俳優に演じさせると言う二重構造を

取りながらも彼らが持っているのはあくまで孤独と寡黙のイメージだ。フォードやホークスがサンライズ・ウエスタンだとしたら此れは差し詰め

トワイライト・ウエスタンと言うべきか。アメリカ伝統の西部劇にフィルム・ノワール的なヨーロピアン・シックと東洋的な虚無とが注入され、

魅惑の異次元が現出している。太陽に背を向ける男ウォルター・ヒルは生まれながらのアウトローであった様だ。

THE LONG RIDERS (1980) (訳:「長距離の騎士達」) (cinema egg)

ポスターは『風と共に去りぬ』(39)を意識している。公開当時、プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスは「これは私の風と共に去りぬだ!」と豪語

していた。黒人奴隷摂取と差別の凄まじい実態を扇情的・露悪的に描いた映画である。こんな題材を堂々とメジャー大作として作れたのは

イタリア人ならではの決断であったのだろう。製作は75年、建国200年を目前にアメリカがお祭り気分に浮かれ始めていた頃である。冷水を浴びせる

様な作品だが、センセーショナルな内容で大ヒット! しかし評判は酷評の嵐であった様だ。それはそりゃそうだろう。誰もが知っていながら触れたくは

無かった恥部を露骨に描いてしまったのだから、

「闇の魔術師」と異名を取ったリチャード・H・クラインの黒と褐色の陰うつなカメラの魅力を大スクリーンで堪能して欲しい。あまりにも刺激的な物語。

「マンディンゴ」とは黒人奴隷のサラブレッドそれを血まみれで闘わせて白人達は歓声を上げるし、奴隷市場では未亡人がズボンに手を入れて男性器を

確認するし、白人は黒人少女の処女を奪うのが日常で、結婚する迄、白人童貞だし、閉ざされた白人上流階級でいとこ同士が結婚するのは良しとしても

兄妹で近親相姦はあるし、白人夫は、黒人娘と。白人妻は、黒人男と姦通するし、あまりにも露悪的過ぎる。このあまりにどぎつい内容に巨匠モーリス・

ジャールが敢えてチープで甘ったるい音楽をかぶせてミスマッチ効果を担っている。形容矛盾だが心地良い不快感?!を齎す映画である。90年代の

ワースト映画ブームと共に人気の高まって来た作品だ。タランティーノの『ジャンゴ/繋がれざる者』(12)も多大な影響を与えている。

『ジャンゴ/繋がれざる者』は大好きな作品だが、唯一の不満は何故かディカプリオの姉役にスーザン・ジョージを起用しなかったのかと言う事であった。

俳優再生術に長けたタランティーノが何故気付かなかったのかと残念でならない。ともあれ、40年の時を経て、スクリーンに復活した映画史上最大の

問題作。必見!と言ってしまおう。

発行・幻冬舎刊   著者・元来渉 (もときわたる)  定価・1,200円+税

1952年度作品。監督 クラーレンス・ブラウン、脚本 ヘレン・ドウイッチ、撮影 ウイリアム・H・ダニエルズ、音楽 ミクロス・ローザ、

主演 スペンサー・トレイシー、ジーン・ティアニー、ヴァン・ジョンソン、ドーン・アダムス、他。　カラー、スタンダード・サイズ、上映時間106分。

毎月パブリック・ドメイン(項的財産)と成った外国映画を10本組1,500〜1,800円+税の廉価版dvdセットでリリースしてくれている神メーカー、

コスミック出版から2月にリリースされた「冒険映画コレクション　十二哩の暗礁の下に」のboxセットの目玉商品と言っていいのが

『プリマス・アドベンチャー』である。日本未公開で過去に特殊上映された衛星放送・等で放映された形跡も無く、日本初リリースである。

17世紀初めにイギリスからメイフラワー号で新大陸(後のアメリカ)に渡った人々の苦難の船旅を描いた史実に基づく歴史映画である。

登場人物も皆有名人らしくエンド・クレジットで俳優名と共に紹介されるが、日本人にはなじみが無い。アメリカの教科書には載っている

のだろうが。そんな訳で豪華スタッフ、キャストの割には日本公開されていないのも理解出来るのだが、僕は楽しめた。

本作で注目すべきは先ずアカデミー特殊効果賞を受賞したミニチュア・ワークであろう。本作、本物の船を海に浮かべてはいないし、

それどころか全篇ほぼスタジオ内のセットで撮り上げられている。野外撮影は88分目あたりのワン・ショットのみでそれも20秒も無い。

全ては人工的にスタジオ内で仮構された映画だと言ってもいい。本作の翌年位から「ランナウェイ方式」と言う外国に資本を移し現地

ロケーションを活用した映画製作が本格化しスタジオ・システムの崩壊が始まって行くから、本作は言わばハリウッドのスタジオ・

システムの職人芸の歴史の、その最後の輝きを刻印した「歴史映画」と言えるかも知れない。

『新聞記者』(19)の藤井道人監督によるヤクザ映画。随分評判がいいし、今年の日本アカデミー賞では幾つも受賞するだろうとの意見も有るがやはり

や手持ちカメラの長廻しの使い方、メイン・イメージと成る煙を噴き上げる煙突等、上手いと思う。だが、『新聞記者』と同じくラストと言うか本作では第

3部がガクッと来た。ネタバレに成るから書くのはやはり頭の中と言うか脳内妄想で作り上げてしまった映画と言う印象を持った。『新聞記者』の監督依頼を

受けた時、それ迄はノンポリで、以後に「東京新聞」を読む様に成ったと言う監督の発言を読んでずっこけたが、あの作品がかつての左翼社会派映画と比べて

モチベーションの弱い映画であったのは間違いないであろう。フラッグシップのマーク入りFAX等判り易過ぎて子供か! と思ってしまった。かつて三島由紀夫が

黒澤明について「黒澤明の思想は中学生だがあの技術は凄い」と述べた事があったが此の監督にも酷似した印象を受ける。

- ここからネタバレに言及 -

幾つか疑問点を書く。まずヤクザ同士の抗争なのだから14年もの懲役をくらう程の罪なのかと言う事。そしてその間誰も面会に来なかったのかと言う事。

刑務所内で時間はたっぷり有るのだから色々学び外界の情報は仕入れられるはずだからいきなり浦島太郎状態と成るのはリアリティが無い! 女性の扱い方も

緩い。肉体関係は拒んだだけで「気の強い女」と言うのはあまりに差別的! ここでの尾野真千子は極めて良い女性に僕には見えたけど。故に姿をくらましてしまう

のが理解し難がったし、幾らヤクザに人件が無いと言われても辞めたヤクザの社会復帰支援組織等、有るはずだ。「○暴」と「ヤクザ」がつるむのなら、もっと

上手くばれない様に立ち回るのではないかと思ったし、公務員であんなに簡単に首切り出来ないはずだ。その他色々書きたい事は有るが此の辺にする。

ともかく此の監督演出は有るのだから、詰めの甘い自分の脚本ではなく、じっくり練られた他人の脚本で次作を撮って欲しいと思う。かつての安部譲二を始め

としてヤクザから足を洗った文化人、言論人は何人も居るし、いくら「暴力団排除条例」が施行されたと言っても日本社会はもっと寛容で有ると思う。

あの追い込まれ方は作り過ぎだと思ってしまった。第3部で失墜してしまった! 残念。

２／１１（祝)ロードショー

＆　■第198回シネマエッグ推薦作 (3/3)　ノマドランド  ２０２１年３月２６日（金）〜

■２０２１■--月■　　■第---回シネマエッグ推薦作　(邦)  シン・エヴァンゲリオン劇場版：I  (アイ)  ２０２１年--月--日（金）〜

ジュリアン・ムーアとミシェル・ウィリアムズが共演するなんて、もうそれを知っただけで此の映画が気に成っていた。此の才能豊かな二人の女優の

演技をゆっくり味わって欲しい。2006年にアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたデンマーク映画、スガンネ・ビア監督の『アフター・ウエディング』

のハリウッド版リメイクだ。そのストーリーの力強さにあっとうさせられたと言う本作のプロデューサーのジョエル・B・マイケルズは、多くの制作会社との

長い権利争いの末、ようやく手に入れた。それに相応しい監督探しにも難航した後、バート・フレインドリッチに決まった。此の人はジュリアン・ムーア

の夫であり、やはり『アフター・ウエディング』に感銘していた彼女は主役に名乗り出た。『アフター・ウエディング』の主人公が二人の男性だったのを

本作では、二人の女性に変えている。世界中で沸き起こるジェンダー問題を考慮し、より今日的な作品にアップデートさせる為だと言う。おかげで此の

二人の女優の共演が観られる様に成った訳だ。ジュリアンより更に難しい役を得たミシェル・ウィリアムズは、此の物語にある感情の起伏に強く惹かれ、

かつてやった事の無い此の役で新しい所に到達出来たと言う。娘役にはオーディションが行われ、

その場に居たジュリアン・ムーアが此の娘に成ります様にと秘かに願っていたアビー・クインが選ばれたと言うエピソードも微笑ましい。

物語は、インドはカルカッタのスラム街で始まる。孤児院を運営しているイザベル(ミシェル・ウィリアムズ)は、子供達と共にする仕事が大好きでは

あったが、資金不足には常に頭を痛めていた。そんな或る日、200万ドルを寄付したいと言う女性から、ニューヨークに取りに来て欲しいと言う連絡

が入った。イザベルにはジェイと言う目が離せない子供が居る為にためらうが、代理ではなくどうしても本人でないと駄目だと言われてしまう。

イザベルを呼んだのは、ゼロから起業し、今や全米一のメディア代理店のトップに立つ億万長者のテレサ(ジュリアン・ムーア)だった。テレサは、

イザベルにまず娘の結婚式が週末に有るのでそれに出席して欲しいと言う。寄付の件も沢定事項と知らされていたのに、もう少し調査させて欲しい

と話が違って来た。当日、テレサの大邸宅に着いたイザベルは、或る男性との再会に驚く。

映画、ドラマ、舞台で活躍中のイケメン10名による伝説DJ番組『オールナイトニッポン』、『おしゃべりや』を映画化したものである。神奈川県伊勢原市

の大山(神奈川に住む子供が遠足で登る山)に在る小さなラジオ局を舞台に、10名の訳あり男子達の共同生活を描く。その10名とは、「あぶりラジオ」

の構成担当アクトに『仮面ライダー　ゴースト』主役の西銘駿。父が立ち上げたラジオ番組を復活させようとするニガリに、やはり『仮面ライダー』出身

の飯島寛騎。料理番クッパを演じるのは『テニスの王子様』の阿久津仁愛。ミキサー担当のミュートを井坂郁巳。番組ディレクターのコージに橋本祥平。

カメラ担当のマクロに深澤大河。メインパーソナリティで人気のディイジェイのセルカには、ゆうたろうと板垣李光人。双子でジェンダーレスの様な

動きが楽しい。アニキ的ポジションのバント―に、立石俊樹。プロデューサーのジムには、映画『天気の子』の声優として人気の醍醐虎汰朗。

また1990年代を代表するJ-POPの数々がキャスト陣によるカバー&ニューアレンジも見所だ。試写案内を最初見た時には、若い男の子を集めたい

から作った映画と言う印象だった。でも実際はそれだけでなく脇を固める俳優のキャスティングにも手を抜かず心配りが見える所が嬉しい。

ニガリの父親と訳あり関係の豆腐屋にイッセー尾形。土産物屋の女主人に、『ONE PIECE』のルフィや『ドラゴンボール』のクリリンの声優、田中真弓。

頑固な職人に、ブッチャーブラザースのぶっちゃあ。真弓さんは私の青学の短大の先輩で、最近一緒に芝居をしています。今月も好演が有ります。

真弓さんに此の映画を観た事を伝えたら、「イッセー尾形さんが素晴らしかった」との感想を持たれていたので、それで本作のキャスティングの

良さに気付いたのだった。ぶっちゃあさんも80年代の深夜番組『姫テレビ』からの永い付き合いだ。今はコロナ渦だから中断だけど、毎年お笑い芸人

中心のお花見を主催している。私も参加させていただいているが、そこに来た若手芸人が数年後に凄く売れたり、懐かしい人と再会したり、

新しい出会いが有ったりと、もはや一つの文化を作っている。大山は階段部分が多い。

子供の頃に貧血だった私は登るのが辛かったけど、本作を機に再び挑戦したく成った。

前作は乗り損ねたが本作は楽しめた。リチャード・ドナー版『スーパーマン』の様な能天気さとティム・バートンはん『バットマン』の様なダークサイドに転がり

そうな感じとが上手くブレンドされている。トレースされているのは主に2つの物語。ひとつはチャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』であり、

もうひとつはW.W.ジェイコブスの『猿の手』である。『クリスマス・キャロル』の方は余りにも有名なお話であり、何度も映画化されているが、『猿の手』が

因みに『猿の手』の映画化作品は何時も応援している廉価版DVDメーカー「コスミック出版」からリリースされている10本組1,800円+税のDVD-BOX

●ヘンリー・マンシーニ楽団コーラス歌唱の主題歌とそのジャズ・アレンジ楽曲によるサントラ●

更新日　2021年1月18日　 クラシック・レビュー『忘れられた人々』★★★
角屋清志

■第197回シネマエッグ推薦作　(邦)  花束みたいな恋をした  ２０２１年 １月２９日（金）〜　  　★★★★ VERY GOOD

主演・有村架純、菅田将暉　■予告篇■　https://youtu.be/cFrBhxMpMwk ♪MP3リスト『Page.16』  (2021.1.31 new)