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 人生
に飽きたら寄り道しよう! ……「サイドウェイ」    桑島まさき


 日本映画「SHALL WE DANCE?」はハリウッドでリメイクされ、リチャード・ギヤ、ジェニファー・ロペス主演で近く
公開されるが、本作のコピーは「幸福に飽きたらダンスを習おう!」だ。実に面白いと思った。特別刺激的なことはないが、仕事も
家庭も円満。自分がたてた人生の目標もほとんどクリアした中年男が覚える空虚感。幸福のはずなのに埋められない心の穴。ふとした
きっかけで通いだしたダンススクールで男は生きがいを見出し輝いてゆく。もちろんダンススクールのステキな女性への淡い思いも
あるが、ずっと自分を支えてくれた妻への思いも新鮮に感じメデタシメデタシというお話。そう、お肉を美味しくたべるためには様々
な調味料が必要なように、長い人生には寄り道というスパイスが必要なのだ。
こんなことをつらつら書いたのは、アレクサンダー・ペイン監督の「サイドウェイ」を書くための、実は、寄り道。

 中年男のマイルス(ポール・ジアマッティ)とジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)は親友同士。マイルスは小説をこつこつ
書いているがなかなか芽がでず教師をしながら夢をおっている。二年前に離婚した妻に未練がありなかなか再出発ができないでいる
マジメでウブ、悪くいえば面白くないサエない男だ。唯一誇れるのはワイン通ということ。ジャックは、過去のスター。なんとか業界
にしがみついているが、スターとしての将来に翳りがみえているのは承知している。プレイボーイの軽薄男。長い独身生活と遂に
おさらばし一週間後に結婚を控えている。
対照的な性格の二人はなぜかうまが合いずっと交流を続けている。そんな二人は、ジャックの独身最後の旅を二人でしよーうという
ことになり、車でカリフォルニアのワイン巡りをする。お互いに、“お前のための旅”と言い合い、ジャックは結婚前にしっかりヤリ
まくるため、マイルスは巧くいかない人生を見つめなおす気分転換のために。道中、マヤ(ヴァージニア・マドセン)という知的で
ステキな女性やマヤの友達のシングルマザー・ステファニーと出会い、二人の旅は若者のナンパ旅行のように変化し、期せずして四人
のドラマに変わっていくのだが……。

 本作は男二人の寄り道ロード・ムービーであるが、見方を変えれば四人それぞれにとって<人生の寄り道>を描いた作品だ。
ジャックは最愛の女との結婚を控えていながら浮気心がうずいて平然と遊びまわる。ステファニーと意気投合しすぐに深い仲になり
イチャイチャ。これまで随分ナンパしまくっていたのに結婚を前に、ステファニーとの刺激的なセックスにハマりホレたかもしれない、
と言い結婚を延期したほうがいいかも、と迷ってしまう。勿論ステファニーには、自分が結婚前であることは隠しているし、セックス
はするがつきあってくれとは言っていないので問題ない、と勝手な解釈をしているご都合主義人間。つまり彼にとってステファニーは
都合のイイ女なのだが、その彼女から秘密がばれコテンパンに殴られ病院へ。ステファニーは本気だったので怒りも激しい。それでも
懲りずに、ステファニーがダメなら次の獲物とばかりに、レストランの女を口説きベッドイン。ここから先は超ー面白いが未見の人の
ために省力したい。
どの番組に出ていたの?と質問されないと傍目にはわからない過去のスターなのにプライドばかり高い自信過剰のジャックはこれまで
の浮ついた人生のつけが一気にやってきてさんざんな目にあうのだが、もうじき結婚する相手だけは失いたくないとイイ年して
オイオイ泣くのだから笑える。これまで女の災難がなかったのが不思議なくらい。さんざんな寄り道の末、自分にとって何が大事
なのかわかったと見える。

 マイルスはジャックと違い道を外せない固い男だ。世界にまたと存在しない希少価値のあるワインを一緒に飲むのは愛する人と。
いつまでも元妻との生活をひきずっている彼はこのワインを元妻と…と思っている男だ。初恋を引きずる男とさっさと新しい人生に
向かう女との極端な意識の差異。マイルスに限らず、世の男たちに共通する傾向だ。彼女が再婚するという話を道中にききヤケ酒を
あび、彼に好意をもつマヤの存在にも気づかない。ステファニーとジャックが彼女の家で早速ヤリまくっている時、二人はベランダで
話を交わしお互いのことを知り合っていく。ワイン通の自分と同じくワインに精しいマヤがしっかりとしたポリシーを持ち、共感
できる女性だと気づいていくマイルスの視線による演技は見ものだ。
自己チューのジャックがステファニーとの約束を優先するのでマイルスはおいてきぼり。一人で食事をしポルノ雑誌をみながら
ウトウトし。そんな彼もちょっと気になるマヤの店を訪ねたりするのだが、過去と決別できないばかりに一歩踏み出せないでいる。
 
 ところで、このマヤを演じたマドセンは見事な復活と呼ぶべきだろう。兄のマイケル・マドセンは一度みたら忘れない強烈な個性
ゆえ売れっ子だが、マドセンはセクシーさばかりが強調され美人なのにイイ役に恵まれなかった。それが本作で助演女優賞
ノミネート。じっくり熟成され時を待っていたとばかりに魅力的だった。
とんだ旅行になったもののジャックは無事結婚式にこぎつけることができた。そこで元妻と再会するマイルス。再婚だけでなく妊娠
までしていると元妻から聞かされた時のマイルスの必死で悲しみをこらえる表情はグーッときた。そこで、アパートに引き返し
ジャックがとった行動(ご覧になって確認してください!)、ようやく過去との決別を決意した潔い男の行動ではないか! そして、
神様がキューピッドしてくれたかのようにマヤからの留守電を聞きかけつけるマイルスよ、アンタの寄り道も決して無駄ではなかった
のだなー。人生に寄り道はつきもの、幸福でも不幸でもたまには寄り道をしよう! マヤの部屋の扉をノックするシーンで終わる結末
の見事さ。
平凡で何が悪い。世の中平凡な人のほうがマジョリティーではないか。人生をワインにたとえた味わい深いヒューマン・ドラマの
傑作だ。

(配給元告知協力作品)




*3月5日より ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ他にて公開中


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